訪問介護を行う介護職への暴力とは、殴る蹴るだけでなく、尊厳を傷つけたり、性的な言動であったりと、さまざまな形態がある。
これは、ある県で実際に起こった出来事だ。女性介護士が、訪問先で何と薬物入りのお茶を飲まされたのである。事業所では夫婦二人暮らしと認識していたが、把握しきれていなかった同居の息子がおり、加害者であった。被害に遭った介護士は、事業所に戻って間もなく意識を失い、緊急入院した。
訪問する介護士たちの安全を守る方法が見つけられない、と事業所の管理者は自分を責め、介護士の回復を見届けた後、退職を心に決めたという。しかし被害者である介護士が今後も訪問介護を続ける旨を伝え、所長も辞めるのではなく自分のような被害者を出さないための取り組みを頑張ってほしいでほしいと訴えたそうだ。
この薬物事件を受け、暴力対策検討会が開かれた。介護関係者や弁護士、研究者の有志らが定期的に集まり、予防策の検討などを始めた。
またメディアを通じた発信で、問題の共有を図った。しかし対策に取り組む中で、問題が表面化すると人手不足がより深刻になる、余計なことをするな、などの現場で働く介護従事者から多くの批判や苦情を受けたという。
訪問介護を行う介護職への暴力問題は、暗黙のうちに容認されてきた部分がある。実態の一部が明らかになっても、まだまだ多くの課題を抱えている。暴力を受けたと打ち明けられない人も少なくはないため、事業所の管理者は起きているきちんと周りを見て判断することが重要である。介護職を守る対策の強化は、良質な介護を守ることにつながるはずだ。